対話でわかる痛快明解 経済学史 感想

 イタコ経済学で主人公の名前が江古野ミク(えこの・みく)という、一見したところスベッていそうな企画の本。正直、実際に読むまではそういう疑念がぬぐえなかった。しかし、読み始めると、そんなものはどうでもよくなった。読み終えると、経済学史の意義というのが自分なりに整理できた。
 まず、経済学という巨人が何でできているかということ。
 一見相反するような”新しい”経済学が生み出され、”古い”経済学を駆逐してきたように見えても、実際は”古い”ものと”新しい”ものが総合されて、経済学は大きく進歩してきた、ということ。こういったことができたのは、経済学がイデオロギー抗争ではなく、その根底にあるものが共通しているのが大きい。
 それは、全ての人々がいかに豊かに、幸福になるかということ。経済学に大きな貢献をした偉人達は、方法は違えど、この考えが根底にあって、現実の問題を考えてきた。
 経済学は決して既得権者を擁護したり、人を切り捨てるものではない。むしろ、それをするのは、本書で反経済学的発想とされているものだ。
 重商主義歴史学派等、色々あるのだが、一番面白かったものを引用してみる。

「そうね。一種の『陰謀論』みたいなものよ。労働組合が力で貨幣賃金率を上げれば、そのまま直接実質賃金率が上がって組合員はトクする。けどそのせいで会社はもうからないので、組合員じゃない人々は就職できなくて失業者になってしまう。『トクの裏にはソンがある』ってわけだ。だからもっと強い力でもって労働組合を叩いて、貨幣賃金率を下げれば、これまた直接実質賃金率を下げることができて、雇用が増えるぞー。既得権層をやっつけろーっってわけよ」

 ちょっと脳内で改変して読むと、なんか最近聞いたことがあるような話になる。色々な人の言説がどこから来ているのか、ということも教えてくれるのだ。
 さて、本書の白眉は最終章にあると思う。それまでの章を踏まえて経済学の現在を語っていて、リフレ政策からプチはだか祭り、ちょっとだけ商人道と、実に盛りだくさんの内容になっている。もちろん、それまでの部分のわかりやすい(とは言っても私にはむずかしいところもある)内容のおかげだ。


 ところで、登場人物の一人である、根上のぞみ(ねあがり・のぞみ)先生は著者の松尾先生ご本人がモデルなのだろうか。だとしたら、一生懸命がんばって若づくりしていることが伝わってくる、ちょっと笑顔がすてきな中年男性なんですね、松尾先生は。

対話でわかる 痛快明解 経済学史

対話でわかる 痛快明解 経済学史