雇用大崩壊―失業率10%時代の到来 田中秀臣著−感想

おおざっぱに言うと、この本は4章までで現在の雇用に関する問題と、その問題の解決には景気の回復こそが最も効果的だ、ということが書かれています。
そして、5章からは景気回復を達成するための具体的な提言にプラスして、各種の細かい政策の解説、提案がなされています。
最初の感想としては、とにかくこのボリュームでこの密度か、というお買い得感がありました。「はじめに」と「おわりに」の部分に全く定型の儀礼的な文章が見当たらない、というあたり、本当は章ごとの見出しもけずりたかったんじゃなかろうかという感じです。
だからといって、読みにくいということはありません。文章はやさしいし、図表を全く使っていないので、私のように図表の読解がとろくても詰まったりすることなく読めます。
しかし、なによりも共感できるのは田中先生の問題意識の持ち方です。
例えば、

あるいは自殺する際、上司や同僚に「恨みつらみ」ではなく「謝罪」の遺書を残すケースもあります。「仕事やノルマを達成できず、迷惑をかけた」ということらしいのですが、自らの命を絶ってまで、なぜ詫びなければいけないのでしょうか。そこまで過酷な労働を強いた会社や上司こそ、詫びるべきでしょう。

という一文や、

識者の中には、「失業した中高年は、自分の生活水準を切り下げてでも職を見つけてやり直せばいい」と語る人もいます。こういう人は、人間の心理状態を柔軟に解釈しているのでしょう。しかし、それがいかに実態と合わないかについて、もっと真摯に考える必要があると思います。おそらく人の心は、もっと脆くて硬直的なものなのです。

という部分に顕著に現れています。数字ばかり追求して個々の人を見ない、という経済学・経済学者に対するステレオタイプなイメージの一種とは正反対と言えるでしょう。
上記のようなことを解決するためには、まずは不況を止めること。そのためには金融政策、財政政策が非常に重要である、ということは、本書を落ち着いて読めばまず納得できることです。
現在の問題を考える上で、前提となるべき考えを教えてくれる一冊と言えます。おすすめ、というか読むべき。

雇用大崩壊―失業率10%時代の到来 (生活人新書)

雇用大崩壊―失業率10%時代の到来 (生活人新書)