商人道ノスヽメ 感想

まずこの本は、裏表紙の「商人道の心得」が目を惹きつける。

一、自立した誠実心
集団の監視がないところでも、他者に対して協力的に振る舞う良心を持つこと。
一、わけへだてない公正
悪い奴がいてもそれは個人の属性とみなして、相手の信頼性を、その人の所属する集団で予断せず、わけへだてなく公正に扱うこと。
一、ウィン・ウィンの信頼
世の中はどこでも、食うか食われるかではなく、だいたいは、他者に対して協力すれば、自分にとってもトクになるのだと信頼すること。

個人的にはこれで読書欲というか、読んでみたい気持ちが非常に高まった。正直に言うと、ウィン・ウィンという表現は今現在、手垢がつきすぎてるので、違う表現にしてもらいたかった。例えば、与えれば得られる、とか。いまいちか。
それで、本文だが、飛ばし読み厳禁という言葉通り、順を追って、なぜ商人道なのか? 商人道とは何なのか? ということが丁寧に語られている。
最後まで読めば、著者の主張する「商人道」がどのようなものかは、かなりつかめるだろう。個人的にざっくりと一言でまとめると、他者への信頼を基調とした、リベラルであろうとする現代人が目指すべき姿勢、といったところだろうか。
とりあえず、感銘を受けた箇所をいくつか引用してみる。

一、異国とわが国とを比べれば、その風俗や言語は異なっているが、天より授かった人間の本性においては、なんの相違もないのである。おたがいの共通するところを忘れて、相違したところをふしぎがり、あざむいたり、あざけったりすることは、いささかもしてはならない。たとえ先方がその道理を知らずにいようとも、こちらはそれを知らずにいてよいものであろうか。人のまごころはイルカにも通じ、心ないカモメさえも人のたくらみを察する。天は人のいつわりを許したまわぬであろう。心ないふるまいによって、わが国の恥辱をさらしてはならない。
もし、他国において、仁徳にすぐれた人と出合ったならば、これを父か師のように敬って、その国のしきたりを学び、その地の習慣に従うようにせよ。

全く同意である。海外の通販サイトなんかに関して、日本の店と比べてどうこうとかいう、しょーもない放言を見たりすることがあるけど、3年以上個人輸入なんかをしてる身からすると、そんなものはたわごとにしか見えない。相手を対等な取引相手とみなしてないからかな。誠実な対応なんて何回もしてもらいましたよ。
では次。

よって、相手の考える生きざまよりも、自分の考えるものの方が、相手の潜在ニーズに合っていると思うこと自体は「大衆蔑視」ではない。ただあくまで相手の判断を尊重して信頼する姿勢が必要なだけである。その上で、自分が善いと信じる生きざまを「マーケティング」していくことが必要になる。
〜中略〜
自分の考えが受け入れられなかったとしても、相手が「遅れている」などと蔑視してはならない。もともと自分が「善き生きざま」と考えたものが独り善がりで相手の潜在ニーズを満たせないものだったのか、それとも売り込み方が悪かったか、どちらかである。こちらの側の練り直しが必要なだけである。

前半部分は多くの人が考えて、実行することだと思う。ただ後半部分は忘れられがちなことで、「遅れている」で終わらせてしまうことは多いだろう。これは、まさにこの前に引用した部分が重要になる。
「おたがいの共通するところを忘れて、相違したところをふしぎがり、あざむいたり、あざけったりすること」そういうことだ。
さて、書評としては落第の感想だが、個人的なナニをもう一つ言わしてもらう。
「武士道」=「身内集団原理」 | 「商人道」=「開放個人主義原理」として提示されている二つのものだが、よくよく考えてみると、個人的に信頼できる、尊敬できると思っている人は、「商人道」=「開放個人主義原理」が強い人だ。
立派なキャリアを持っていても、私のようなしょーもない奴にすごく丁寧に色々教えてくれたり、短期的には会社の利益にならないようなことでも、骨を折ってくれたりとか、辞めてしまえば何も関係なくなるのに、潰れそうな会社の債務をしっかりと返済させようとする人とか、その他色々。
逆に、ちょっとアレだなと思う人もいる。ありがちな例を挙げると、言い訳に会議とかの自社の都合を使う人。それって、外部の人間には全く関係ないですから。あとは、情報を小出しにして、しかもそれが相互に矛盾してたりする人。どうせ出すんだから、最初っから正直に言って欲しい。
実際、前記のような人には、なんとか仕事を頼みたいと思うんですよ。それこそ、こちらの利益が多少減ったとしても。
まあ、偉そうに書いてる私はダメダメですが。
それから、あとがきにかえてで書かれているんだけど、石橋湛山に触れられていないのは惜しい。一章を費やしてもいいくらいだと思うだけに、本当に残念。
ところで、著者である松尾匡先生は、前著「はだかの王様の経済学」で「はだか祭り」と呼ばれるほどの話題をネット上に提供していた。色々な意見が見られて、非常に充実したお祭りだった。
本書の第九章は、それに対する答えになっているとも言えるものだと思う。「はだか祭り」参加者の人の感想が読みたい。
なにやら支離滅裂になってきたけど無理矢理まとめる。
「商人道ノスヽメ」はすごく刺激的で面白い本だ。読んで損はしない。

商人道ノスヽメ

商人道ノスヽメ

追記
http://d.hatena.ne.jp/bunz0u/20090808/1249659468に山形さんの商人道書評に関する雑感があります。